姉上、元気にしておりますか
スナック経営は順調ですか
今日も僕の頭上の江戸の空には、相も変わらず天人達の船が沢山飛び交っております
よく晴れ渡った綺麗な青い空に浮かぶそれは
誠に奇妙な光景を醸し出してるとしか、僕は思えてなりません
父上の言っていたように
また、雲ひとつ船ひとつない美しい江戸の空を二人で仰ぎたいものですね
僕の方は
テロ集団に間違えられたり、麻薬密売事件に巻き込まれてヤバい薬かがされたり
どこぞのバカ皇子の怪物ペットに危うく食べられそうになったり
チンピラ警察に絡まれたり、お通ちゃんの護衛をしたり、ペット自慢に出演したりと
ここでは書ききれないくらいの波乱万丈の波乱しかないような充実した生活を送っております
そして今日もまた
僕の不幸を綴った手紙が、後三枚ほど増えそうな事態が不可抗力で発生してしまいました
取 り 返 し の つ か な い 失 態
今の時刻は丁度正午過ぎ
そして今日の江戸の空は
青い青い空が何処までもつづくかのように晴れ渡っていて…
今ここにあるこの惨状とは、まるで似ても似つかぬような美しい蒼を見せていた。
銀時は考える
何故このような事になったのか
してこの悪の元凶は一体今どこに居るのか…
そして次出逢った時、そいつをどうしてくれようかと
やり場の無い怒りが、今彼の中でグルグルと出口を求め迷走していた。
やるべきことはわかるよ
わかるけど、やる前にちょっと冷静にならなきゃ
俺、犯罪者になっちゃうかもしれないから
とりあえず…俺に時間をくれ
ちょっとばかし、頭を冷やす時間を
「………」
「わ〜それ…すごい頭だね……銀ちゃん…」
「確かに…いつもより大きくなってますよね、頭…」
「頭の細胞増えたアルか?」
「……お前ら……(特に神楽…)それ俺に喧嘩売ってんの?ねぇ?」
青空の下『んーん』と三人揃って首を横に振る。
でも視線は通常時よりも倍ぐらいに膨れ上がった銀時の頭に釘付けだった。
「…お前らやっぱり…」
「ち、違うよ!別に銀ちゃんをバカにしてる訳じゃなくて…」
「そうですよ!銀さんの今の髪型が面白いとかそういうんじゃなく…」
「そうヨ。お前その頭の膨らみ具合は異常だろとか全然思って無いアル!」
「「か、神楽ちゃんっ」」
「…神楽、新八、テメぇら…」
「お、落ち着いて銀ちゃんっ。ドードー」
「ちょっ暴力は無しですって!」
フヒューフヒューと鼻息を荒くする銀時をなんとか宥めて
とりあえず煤だらけのソファーに座らせる。
今日の銀時は沸点がいつもより低いらしい。
それもこれも………
「神楽、テメェが時限爆弾なんかを暴発させるからこんな事になったんだぞ
分かってんのかコノヤロー!!!見ろ!!この惨状を!!!見ろ!!この頭を!!!」
ドバンッと立ち上がって神楽を指差しながら一気にまくし立てる銀時。
倍に膨らんだ頭が、勢いで面白可笑しく揺れた。
「私ただ好奇心でいじくってただけネ。あんま悪くないヨ」
「まぁまぁ銀ちゃんっ。神楽ちゃんも反省してるようだし…(笑)そんなに激しく動かないで頭が…」
「そうですよ。
あんまりって言ってるんだから、少なからず反省してるハズですから…(笑)僕もう耐えられません」
「(笑)って何だ!!?お前ら、俺を直視しろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(怒)」
事の起こりは、時をさかのぼって数十分前…
定春の散歩から帰ってきた神楽が、万事屋にいく外階段を登っている時に
妙な丸い物体を見つけてしまったことから始まる。
カツンカツンカツン…ぴた
「何アルか?これ…」
ポツンと。
それは階段の隅に落ちていた。
丸い、手のひらに乗るゴルフボールのような物体…。
「…どっかのガキが、置いてったアルか?」
ちょっと不思議に思ったが
神楽はそれを手に取り、ポンポンと弄びながら万事屋の玄関を開けた。
「ただいまヨ〜」
「あ、神楽ちゃんお帰り」
「新八。銀ちゃんとは?」
「奥に居るよ」
「そうアルか」
玄関を開けると、そこには新八が居り
彼はモップを片手に廊下掃除をしていた。
神楽は傘を笠立に置いて、新八が拭いてピカピカになった廊下を渡った。
未だに手の中で丸い物体を転がしつつ、神楽は奥の扉を開ける。
「(…何かこれ、どっかで見た事あるネ)」
ガラッ
「あ、神楽ちゃん定春の散歩から帰ってきてたんだ。お帰りなさ〜い」
奥の部屋に続く扉を開けると、そこには新八の言った通り
と銀時がソファーに座っていた。
はお茶を飲み、銀時はジャンプ片手に足を組んでいる。
「おお、バイオレンス怪力チャイナ娘。帰ってたのか。俺はてっきり故郷に帰ったと思っ―」
ビュッ
めこっ 「い゛」
「…何か言ったアルか?」
「言ってません」
コロコロコロ…コツン
「なぁに?このゴルフボール」
「あっ」
銀時の暴言に、咄嗟に手にあった球体を投げつけた神楽。
そのボールは銀時の顔面にクリーンヒットし、彼を撃沈させた後
コロコロと転がっての足元でコツリと止まった。
「?」
「何でもないアル。外の階段に落ちてただけヨ」
神楽はそう言うとそれをすっと拾い上げて、手の中に収める。
「それより、酢昆布食べるカ?」
「わ〜食べる食べる〜〜っ」
「はいヨ」
「わーい」
その後、神楽とが二人でお茶を飲みながら談笑してると
そこに廊下掃除が終った新八が加わった。
テーブルに撃沈してから、ずっと忘れられていた銀時が復活したのは
それからちょっとしてからの事。
三人でまったりお茶をすすっていると、銀時がムクリと起き上がった。
「あ・銀ちゃんやっと復活〜」
「いちち…おい神楽ぁ、ほんの冗談言っただけだろーが…」
「私つまらない冗談嫌いネ」
「そういえばさっきから気になってたんだけど、神楽ちゃん
そのボールどうしたの?」
新八が不思議そうに神楽の手の中で転がされているボールを指差す。
「これ外で拾ったんだって」
「ふ〜ん…」
「お前はとことん拾いものが好きだな」
「拾いものには福があるゆうネ」
「お前それ間違ってねーか?お前の拾ってくるものはどれも不幸ばかりを呼…」
「ちょっと待ってください」
神楽が銀時に湯のみを投げようとしていると
真剣な顔つきで考え込んでいた新八が、『あっ』と何か思いついた様に声を出した。
「これ…どっかで見たことないですか?」
「「え…?」」
真剣な面持ちの新八の言葉に
一同まじまじと神楽の手の中で弄ばれているボールを見つめる…
「う〜ん…そうかなぁ?」
「そうですよ」
「確かに見た事あるって言やぁ、あるよーな、ないよーな…」
「実は私もそう思うネ」
ぴゅっ
神楽はそう言いながら手の中のボールを宙に投げた。
銀時とはそれを眼で追う。
新八は考え込みながら話しているので、まったくそれに気付かない。
「これ…似てませんか?桂さんの時限爆弾と―」
「「え」」
ぱしっ
「私もそう思ってたアル」
ピ 残り時間後00:10
『あ』
「「「あ…あ…あ…」」」
「…スイッチ、押しちゃった」
「「「あ゛…ああああああああああああああああぁぁっ!!!!!?」」」
「テヘ☆」
「「「あ゛ああああああああああああああああぁぁっ!!!!!!!!?」」」
騒いでみても後の祭り。可愛子ぶって『いっけね☆』をやっても
事態の収拾はつくどころか
逆に……
「テヘ☆じゃないわ!!こんの、あほんだらァァァァァアァァァァ!!!!!!」
銀時の絶望的な叫び声を皮切りに、
万事屋は一瞬にして最悪の展開
集団パニックへと陥った…
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!死ぬぅぅぅぅぅ!!!!!」
「ボケェェ!!なにさらしてくれとんじゃいこのアマァァァァ!!!!?」
「ぎ、銀さん落ち着いて!そんなことより爆弾をっ」
「ハッそうよっみ、みみみみんな落ち着いて!こうゆう時こそ冷静に!!冷静によ!!!」
「うるさいわっ!!おまっ二回目だぞ!!?
しかもこんな所で…何仕出かしてくれとんじゃァアァァァ!!!!!」
「みんな冷静に!ほら、ここにある縦笛でも吹いてとりあえずリラックスリラックス」
「それチクワだよ、ちゃん!!!」
「そうアル。ここにある横笛でも吹いて…」
「お前らが一番冷静になれ!!!!!」
「死ぬぅぅぅぅ!!!どうすんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
「落ち着いて!!大丈夫、きっとどこかにタイムマシンがあるハズだから皆で手分けして…」
「ちょっ!?そんな机の中探したってあるわけねーだろ!!!?」
「そっそうだ!こういう時こそ役に立つ、手に米のおまじないを…!」
「銀ちゃんこういう時は手に人ネ」
「お前らバカ!!!?バカ!!!!?何冷静に駄目だししてんの!!!?ねぇ!!?」
「どどどどどどうしよう!!!漬物石が無いーーー!!!!!!」
「漬物石なんて一体何に使うのさ!!!?用途不明だよ!!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
万事屋一同が皆
思い思いに叫んだり
喚いたり
意味不明な行動をとってみたりしている間に、時限爆弾のタイマーは刻一刻と時を刻んでいた。
「銀さんっ!!ほら、また上に投げればいいじゃないですか!!あの時みたいに!!!」
「上!?そうかその手があったな!!!」
ピ 残り時間後00:03
「新八貸せぇぇぇぇぇ!!!」
ピ 残り時間後00:02
「ちょっ銀さんそこで投げたら…!」
ピ 残り時間後00:01
「ふんぐぁぁぁぁ!!!!!!」
ピ 残り時間後00:00
ドゥガァァァァァン・・・
「でもさぁ…何かすっきりしたよね…特に頭上が。空が丸見えだよ」
「今日、日差し強いネ。私ちょっとクラクラするヨ」
「あの時銀さんがもっと冷静に対処してたらこんなことにはならなかったのに…」
新八は壊れた眼鏡をかけながら、遠い目で空を仰いだ。
ああ…空が憎いほど青いなチクショウ…
「うるせぇ。誰の所為でこうなったと…」
辛うじて残ったソファーに座りながら新八同様、空を仰ぎながら言う銀時。
あの時、銀時が渾身の力で爆弾を上に投げたのはいいが
そこは屋内。
天井にメキっとのめり込んだだけで、それは何の意味も成さなかった。
…結果爆弾は頭上で炸裂し、天井はキレイさっぱり吹っ飛んでしまったわけで…。
「…」
「…」
「…」
無言の圧力。
「…俺の所為なのか?」
「そうヨ。こうなったのも私だけの所為じゃないアル
銀ちゃんがあの時一人でテンぱってたのもあるネ」
「まぁ、確かに銀ちゃんはあの時冷静さが欠けてたとゆーか…そんな感じはしたけど。
でもさぁ、生きてて良かったよね。あんなに至近距離で爆発したのに」
「これも私の日頃の行いの良さのお陰アル」
「一番冷静さを失ってた奴と
一番日頃の行いが怪しい奴が言う台詞ですか、それ」
そう、今誰に責任を転嫁したって何の解決にもならないのだ。
とりあえず、今しなくてはならない事は…
「銀さんどうします?これから…屋根もなくなっちゃいましたし」
「……とりあえず」
「とりあえず?」
「この惨事の根源。悪の元凶を見つけ出して、このやり場の無い怒りを奴にぶつける」
「と、ゆうと」
「ヅラァァァァ!!!テメェ首根っこ洗って待ってやがれェェェェェ!!!!」
「やっぱり…」
「銀ちゃん、そういうことなら私も協力するネ」
「必ず見つけ出して此処の屋根弁償させてやるぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
「でも見つけ出すのはいいけど、桂さんって今どこに潜伏してるのかなぁ」
「私今から聞き込みしてくるヨ」
「あ、行ってらっしゃーい」
「ヅラァァァァ!!!!!!!!!!コンチクショォォォォォォォ!!!!!」
「…はぁ」
姉上
今日の惨事は不幸中の幸いとでもいいますか
何とか皆、命だけは助かることができました
人間、命より大切なものは無いなぁと
ここに来てから僕は思うことが増えた様に思います
姉上も色々(ストーカーとか)大変かと思いますが
どうかお体に気をつけて、日々楽しく生きてください
あ、言い忘れましたが
僕は当分屋根の無い生活を送ることになりそうです
あ、ホームレスになったとかそういうのではないのでどうか怒らないで
今日も新八は雑草の様にたくましく生きていきたいと思います
終
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いっぱい補足(とゆうか言い訳)したい。
全てはですね、あのヅラ小太郎が時限爆弾を
袖からポロリと落としていったのが元凶かと。
そしてどうして皆が死ななかったかと云うと
ゴルフボールサイズだったから、威力も屋根を吹っ飛ばす程度しか
無かったのです(それでも充分死ねるのでは…)
万事屋部分しか吹っ飛んでませんよ。一階のお登勢さんとこは無事です。
分かりにくくてすみませんでした。
自分でもどこをどうすっとこうなるのか…。
確か最初はもっとこう他愛の無いものを書こうと(てか書いてた)していたのに…(ガクブル)
ここまで読んでくださったさん、ありがとうございました。
「創り手さんにいろはのお題」
2004.9.8